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アドレナリン投与のタイミング

AHA(American Heart Association)の心肺蘇生ガイドラインは5年ごとに更新されています。2015年版ガイドラインにおいても、いくつかの重要な追加事項があり、今回はそのことについて述べたいと思います。

まずは確認ですが、次のシチュエーションにおいて、あなたはどのように行動しますか?

56歳男性、既往は特になく昨日に右足の蜂窩織炎で皮膚科入院となっていました。朝、看護師さんが患者さんと話をしていると急に患者さんの意識がなくなり、反応がなくなりました。すぐに救命科にCallしました。看護師さんが脈を確認すると触れず、呼吸も認めなかったのですぐにCPRを看護師さんが開始しました。30秒後、各種モニターをとりつけたところで救命医のあなたが到着しました。心電図はVF波形。脈は触れません。※右手に22Gのラインが挿入済。

Q. さて、次にあなたは何をしますか?次の選択肢から選びなさい。

 
  1. そのまま胸骨圧迫を継続。2分後に波形がVFであれば電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにアドレナリンを投与する。
  2. 胸骨圧迫を継続しつつエピネフリン投与をすぐに行う。また投与直後に電気ショックを施行する。
  3. すぐに電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにエピネフリンを投与する。
  4. すぐに電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。2分後に波形チェックをしてVFであればまた電気ショックを施行し胸骨圧迫を再開。その後すぐにエピネフリンを投与する。






そうです。答えは4です。3と勘違いされた方が多いのでは?と思うのは僕だけでしょうか。

今回の2015ガイドラインで新しく追加された項目の1つとして、“初期の非ショック適応リズムによる心停止後、エピネフリンを速やかに投与することは妥当である。”というものです。しかし、2010ガイドライン同様に、“ショック適応リズムによる心停止後、除細動とエピネフリン投与の最適なタイミングは決まっていない。エビデンスが不十分である。”は同様に継続されています。

つまり、「心電図波形がasystole(心静止)とPEA(無脈性電気活動)であれば早期にエピネフリンを投与するべき。しかし心電図波形がVT(心室頻拍)とVF(心室細動)の場合は、エビデンスが不十分なためエピネフリンをいつ投与するべきか、決まっていない」ということになります。AHAのstatementをそのまま引用すると、
“It may be reasonable to administer epinephrine as soon as feasible after the onset of cardiac arrest due to an initial non-shockable rhythm.”And ”There is insufficient evidence to make a recommendation as to the optimal timing of epinephrine, particularly in relation to defibrillation, when cardiac arrest is due to shockable rhythm, because optimal timing may vary based on patient factors and resuscitation condition.”
となっています。

これを受けて、AHAのACLS(Advanced Cardiac Life Support)では、後者については心停止の心電図波形がVT/VFであった場合は、まず早急に除細動を行うが、その後すぐにはエピネフリンを投与せず、2分後のリズムチェックを経て、次のインターバルになって初めてエピネフリン投与を実施する、というコンセンサスを採用しています。

注射器イラスト今回、この事を取り上げたのは、

①「エピネフリン投与の時期」は、我々の臨床行動に直接影響すること。

②上記のようにエピネフリンの投与時期として“It may be reasonable to administer epinephrine as soon as feasible after the onset of cardiac arrest due to an initial non-shockable rhythm”の項目が追加となったこと。

③しかし、問題にも示したようにショック適応の波形ではすぐにエピネフリンを投与していいというわけではなく、また、すぐに投与することが推奨されていると勘違いしている医師も多いこと(以前の僕を含めて)。

④完全な私見ですが、2015年以降も徐々にエビデンスが蓄積されており、ショック適応波形時には早期のエピネフリン投与よりも、2回目、もしくは3回目の電気ショック後のエピネフリン投与のほうがROSCを含めて予後を改善するといった報告があることから、次回、もしくは次々回の改定ではショック適応波形時のエピネフリン投与時期についてもしっかりとしたRecommendationが追加されることが予想されること。

④については僕の私見でしかありませんが、心肺蘇生の世界はエビデンスに合わせて少しずつ変化しています。そして、この流れから取り残されないように、日々勉強したいと思います。(文責:阿部/新井)

公開日:2017年8月10日  カテゴリ: ポケットガイド, 心肺蘇生
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