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第27回 後から思うと当然のこと、、、

第27回 後から思うと当然のこと、、、

ニュースを見ると、さまざまな見解がある。
政府や都道府県のコロナ対策について、あらゆる見解が飛び交っていて、
何が正しいのか、誰にも分らないように見える。

しかし、正解は「現場」にある。
その正解は、現場の医師や看護師のみが知っている。
当科の医師達は、感染制御部の平井教授らと共に、現場を守っている精鋭である。

いまこの瞬間も、救命救急センターの多くの医師が職場に残って、
重症コロナ患者さんの処置をしてくれている。
その中で見える事実が、世の中の見解とまだ大きく解離している。
まるで机上の理想論に烏合の衆が流されているように見える。

「コロナをみない」ということは、何もかもみないということ

以下、「Covid-19対策WEBセミナーin八王子」における専門家らの見解を中心に記載する。

まず、コロナの潜伏期間は最大14日間である。
これは、今日、あなたにPCRを5回検査して5回とも陰性であったとしても、
今日が潜伏期間中であれば、明日以降、陽性になることを意味する。その潜伏期間が最大14日もある。

そもそもPCRは3割を見落とす検査であり、かつこの潜伏期間を考えると、
コロナ感染を「否定」することは、どうしても不可能なのである。
したがって、医療政策上、
「コロナをみる」病院と、「コロナをみない」病院に分けることは不可能である。
どんなに逃げても、コロナは追いかけてくる。

脳卒中患者さんの中にコロナ感染者がいる。
心筋梗塞の患者さんの中にコロナ感染者がいる。
大腿骨頸部骨折患者さんの中にコロナ感染者がいる。

コロナの患者さんは「コロナです」と言ってやってくる訳ではない。
普通の(コロナ以外の疾患で入院していた)患者さんが、
コロナ感染者であると、途中で判るのである。

透析患者さん、糖尿病患者さん、白血病患者さん、喘息患者さん、妊婦さん、、、、
全ての患者さんの中に、コロナ患者さんがいる。

したがって、「コロナをみない」ということは、
脳卒中をみない、心筋梗塞をみない、骨折をみない、透析患者さんをみない、糖尿病をみない、白血病をみない、喘息をみない、、、・・・何もかも、みない。ということである。

自分は常に感染者であり、絶対に周囲にうつさず職務を全うする

病院職員にも大勢のコロナ感染者がいる。
そもそもコロナ感染者は8割が無症状か軽症である。
明日、職員500名全員を対象に一斉にPCR検査を行ったら、
少なくとも都内ならどの病院も、かなり大勢の職員が「陽性」になるだろう。
(クラスターとされてしまう、、、)

この陽性者を、「無症候性の感染者」という。
無症候性の感染者は、検査してピックアップされなければならないのか?
いや、ピックアップする必要はない。いや、ピックアップしてはいけない

なぜピックアップしてはいけないのか?

その答えは、「何のために感染対策をしているのか」、に立ち戻る。
我々は、平井教授に、耳にタコができるくらい教えてられてきたが、
これは、現場から離れている人間には、頭では理解できても「実感」できないのだと思う。

それは、我々は、自分がコロナだとしても他人にうつさないために感染対策をしている。
常に自分はコロナ感染者だと思って、それを他人にうつさないために感染対策をしている。
ということである。

そのために、マスクと手指衛生を徹底している。(特殊装備は不要)

その次に、万が一、自分がコロナじゃない場合も、他人からもらわないように対策している。

この「順序」が大事なのである。

無症候性の感染者をピックアップしたら、
その周辺の濃厚接触者も退場処分になり、病院はあっというまに機能を失う。
我々は機能を失って良いのか?良くないに決まっている。

これは、コロナ医療の最前線で、ギリギリの人員で、誰も代わりのいない中、
年末年始関係なく、現場を守っている当事者達にしか、わからない「感覚」なのである。

症状も無いのにPCR検査をされて、万が一、陽性だったら即「退場」である。
そんなことをされたら、自分たちに命を預けている患者さんたちはどうなるのか?

すでに行き場を失った大勢のコロナ患者さんたちは、誰がみるのか?
その人たちを放り出して、逃げていいのか?

いやいや、我々は、逃げてはならない。

そのために、感染対策をしているのである。
万が一、自分がコロナに感染していても、絶対に相手にうつさない。
そのためのマスク、手指衛生である。

コロナの感染対策が病院に必要な最低ライン

医療者にとって、
コロナ患者さんを「みるみない」は、こちらで決められる問題ではない。
どの患者さんの中にも、そしてどの職員の中にも、コロナ感染者が大勢いるのである。

昨日、ニュースを見ていたら、
『中小の民間病院は設備や人員の問題により、コロナをみることができない。みたとしてもあっという間にクラスターを作ってしまい経営が立ち行かない。だから中小病院はコロナをみるべきではない』とあったが、これをみて心底びっくりした。

そもそも、コロナは「みるみない」の問題ではなく、どの病院にもいる。
したがって「あっという間にクラスターを作ること」を回避できることが、
この先、「病院」が「病院」として存在するための最低ラインの条件だと思う。

(今は全ての病院がそのレベルにないだろうが、みんなでそこを目指すしかない)

最初から「当院は設備がないのでコロナをみない」などと考えていたら、
それこそ、あっという間にコロナにクラスターを作られてしまい、病院として成立できなくなるだろう。

自分も、あなたも、どなたも、院内にいる全員が、既にコロナに感染していると思って、
決して横にうつさないようにする、それができて初めて「病院」なのだと思う。

それができて初めて、手術ができる、カテーテル治療ができる、外来診療ができるのである。

感染症対策は、手術やカテーテルなどといった特殊療法ではない。
「注意して気を付けること」なのである。そこに一切の特殊技術はない。
当然ながら、医師や看護師といった医療者であれば、誰もができなければならない。

自分(医療者)が熱発したら

前回(第26回)も書いたが、
市中感染(とくに家庭内感染)を防ぐことは不可能である。
それは、エッセンシャルワーカーである医療者も同じである。

では、どうすればよいか?答えは「現場」にある。

医療者は、もし熱が出たら、自宅で休養すればよい。当たり前である。
休んで元気になったら、出勤して働く。
万が一コロナであっても決して周囲にうつさなければよい。
10日経てば感染性は無くなる。

(↑ここまでは、コロナの検査を実施する必要はない)

そして、もし休んでも元気にならず、入院が必要であれば、
鑑別診断の一部として、コロナの検査も実施して、入院する。それだけのことである。

あとから思うと当たり前のこと

昨今、ニュースではあらゆる見解が飛び交っていて、
何が正しいのか、誰にも分らないように見える。

しかし、日本の医療はすでに現実に即して動き出している。

例えば、PCR検査の「する/しない」は、高度に社会的な判断が要求されるが、
その「見極め」は、厳しい現実を生きる医療者にしか、今はわからない。

しかし今後、感染が広がり、現実を生きる医療者が増えるにしたがって、
その「感覚」は広く共有されることになる。後から振り返ると、ごく普通のことになるだろう。

また、コロナの「みる/みない」で病院を分けることはできない。
このことが、あらゆる医療政策の前提となるだろう。
したがって、コロナとて、これまで通りの医療ヒエラルキー(重症=大病院、中等症=中小病院)に落とし込まれ、医療者みんなでみるしかない。

これも後から思うと、当然のことになるだろう。

第28回 に続く
公開日:2021年1月14日  カテゴリ: 新井隆男のブログ

プロフィール

救命救急センター長 新井隆男

東京医科大学八王子医療センター
救命救急センター長 新井隆男

◎所属学会 認定資格
日本救急医学会指導医
日本救急医学会関東地方会
日本臨床救急医学会
日本外科学会
日本腹部救急医学会
日本感染症学会
日本熱傷学会
日本プライマリ・ケア学会

◎これまでの社会活動
東京DMATインストラクター
東京都地域災害医療コーディネーター