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第23回 地域全体のコロナ対応レベルアップについて

要旨:

地域が経済活動を再開させるためには、

地域の「医療崩壊水準」を引き上げること、
つまり、全病院の「コロナ対応レベルの底上げ」、が重要ではないかと、私は思う。

この度、ある救急告示病院の理事長先生に、コロナ対応病院として「手上げ」した経緯や、
そのためにはどのような準備が必要か、についてインタビューした。

  1. 地域の「医療崩壊水準」は、まだまだ飛躍的に上昇させることができる
  2. ある理事長のインタビュー
  3. まとめ

(以下本文:10分程度でお読みいただけます)

第23回 地域全体のコロナ対応レベルアップについて

地域の「医療崩壊水準」は、
まだまだ飛躍的に上昇させることができる

日本では、感染爆発を抑えるために、
緊急事態宣言が敷かれており、
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の蔓延が、ある程度「下火」になった。

しかし、第2波、第3波は、必ずやってくるため、
地域の全病院は、院内のコロナ対策を、今のうちに早急に、構築すべきと思う。

緊急事態が5月いっぱいで解除され、
市民の接触が増えると、その後、数週間で第2波がくる可能性がある。

コロナの潜伏期など、一般的な情報をあわせると、
第2波のピークは、早ければ、6月下旬にやって来るだろう。

残り1ヵ月半しかない。

この先、

ワクチンの導入や、期待される集団免疫の確保まで、
何年もかかる可能性がある。

その中で、

今後、経済活動を再開させ、コロナとの共生を図るためには、

「医療崩壊水準」が「経済活動による感染拡大」を常に上回る必要があるだろう(図1)。

図1:医療崩壊水準と患者数のイメージ(著者作成)医療崩壊水準と患者数のイメージ

ここで、重要なことは、
「医療崩壊水準」は今後、飛躍的に上昇させることができる、と私は思う。

4月に入って、

救急搬送の受け入れを複数の病院が断るケースが相次いでいるが、
その理由は、「感染の疑いのある患者を」受け入れない病院が多かったからである。

もちろん、全ての病院は、「院内感染」や「風評被害」のリスクに直面している。

しかし、だからと言って、

「感染の疑いのある患者を受けない医療」なんて「成立」するのだろうか?

心筋梗塞や脳卒中などの、高度医療が必要な患者を、
地域の基幹病院へ集約する、というのは、わかる。

しかし、「感染の疑いのある患者」は、あまりに普遍的に存在する。
「感染の疑いのある患者」は、外来や入院患者の大部分を占めると言っても過言ではない。

したがって、

少なくとも、軽症患者は、どの病院でも診なければならないだろう。

そういう意味で、

「医療崩壊」には二つの理由があると思う。

1つ目は、重症のコロナ患者さんに対応する医療資源やスタッフの不足
2つ目は、日本の多くの病院が「感染の疑いのある患者」の診療を拒んでいること

だと思う。

我々の、医療サイドの目標が、
「コロナによる死亡者数を少なくすること」なのであれば、

それを実現するためには、

平時の医療と同じように、
三次救急を頂点としたしっかしたピラミッドを作ってゆくことだと思う。

つまり、少なくとも軽症のコロナ患者は各々の病院でみれる体制を、
各々の病院が作ってゆかねばならないのではないか、私はそう思う。

ある理事長のインタビュー

5月3日に、
ある救急告示病院の理事長先生にインタビューした。

この人物は、少なくとも軽症のコロナ患者は自分の病院で診る方針を掲げている。

インタビュー内容を下記に示す。

Q1.
「新型コロナ感染症対応病院」に手上げした経緯は?準備に何が必要か?

(理事長)

4月に入って東京都の状況が良くないというのが、なんとなく見えてきて、
4月7日の火曜日に、看護部など病院職員を集めて、
やっぱり(新型コロナ患者を)受けないといけないんじゃないか、ということと、
受けないことによって、防護具とか、そういったものが、手に入らない、
受けることによって、都との約束としては防護具を送っていただける、
ということを説明しました。

やはり、この院内で、院内感染が、いつどこで起こってくるかわからない中で、
やはり防護具がないというのは、「裸で戦え」ということになってしまうので、
やはり防護具を仕入れるためにはどうしたらよいか、というのがまず一つ目に考えました。

もちろん、救急病院として早く社会貢献したいというのも考えにありましたが、

実際には、自分としても「怖さ」があしますし、
「感染症専門医」や「呼吸器内科医」などが院内にいない中で、
コロナ患者さんを受けていいのか、という疑問もありました。

たまたま4月8日に地域の基幹病院に行って、
救命救急センターのセンター長らとお目にかかって、
本当に、「状況が逼迫してる」という話を聞けて、

それで、4月9日に、「やっぱりやるしかない」、っていう話を、
病院の幹部を集めて宣言し、4月10日のうちに緊急の全体朝礼を行って、
全スタッフに、「やるんだうちは」というのをアピールしました。

やらないとどうなるかっていうと、
やはり院内感染が起こったときに、地域に「おんぶにだっこ」では、
そのとき各病院のベッドがいっぱいだったら、どこも協力してくれる余裕はないでしょう。

例えば病院職員やその家族がコロナにかかる可能性もあると思います。
職員や家族がなったときに、当院にノウハウができていれば、
近隣の病院が満床でも、うちで、なんとか、その人たちを診てあげられるかなと、
いろんな意味で「皆を守れるんだよ」っていうことで、押し切りました。

ただやはり、そういう中で、非常に、反対意見というか、
スタッフ本人からというより、本人のご家族などから、
そういうことやる(コロナ患者を受けるような)病院なんだったら、辞めなさいとか、
いろんな話が出てきたので、一つ一つ、誤解を解いていく必要があると思いまして、

なかなかこういう(3密の会議を開けない)状況なんで、
勉強会とか、そういったことがなかなかやりにくいので、
なんせスライドをたくさん作り、配布して教育をすることにしました。

その中でまた、
職員から疑問を言ってもらえると、ああ、こういうところが解らないんだなとか、
怖いんだな、という疑問に私が答え返すようにして、
そういった、新型コロナに対する知識を、なるべく全スタッフに見てもらうように、
スライド作りを、何回にも分けて、現在も進行中ですが、やっています。

職員のご家族が安心できるように、「こども版」(子供が読むための冊子)まで作りました。

なにせポイントは、空気感染しない。飛沫と接触だけだと、
なので、「マスク」と「距離」と「手指消毒」、これさえ守れば大丈夫なんだと、
そういう内容を徹底して「正しく恐れよう」と伝えています。

それから、こういったときにすごく思うのが、
職員のみなさんが、ホントに心がトゲトゲしていて、
なかなか、言った言わない、聞いた聞かない、そういうところだとか、 誰が司令塔になるんだとか、トラブルが起こりやすいです。

ちょっとしたことで、(ある部署で)それいいねと私が言うと、
違う部署から、なんでそこ(その部署)だけ決まってるんだと、言われたので、
本来、会議で集まるのは良くないんでしょうけど
全部署を集めて、座る間隔を開け、よく通気しながら、
週3回は幹部会議を開き、急ピッチで進めて、
2週間で、ある程度いろんなことが決まりました。

設備のことに(新しい水道・敷居・ドアをつけた)、さらに1週間必要だったので、
トータルで、概ね3週間でした。
最短でやっても、それくらいかかりました。
っていうのが、受け入れ準備までの経緯になります。

ここからわかることは、
院内の啓蒙を、病院の管理者自ら(あるいは現場の代表が)が先頭に立ってしなければならないことである。

コロナに対する感染管理は、どの病院でも最初からできているものではない。
病院職員の多くは、一般の市民と同じように、決して「知識的に洗練された状態」ではないと思う。

それが日本の医療の現在の立ち位置なのだろう。

しかし、普段からインフルエンザやノロウイルスなどに対して、
どの病院もしっかりした感染対策を行ってきた。

内容的にはそれと同じものを、より強化するのみである。
しかし、そのことすら多くの病院職員は認識できていないし、新たに啓蒙し直す必要がある。

この理事長先生もいわば「独学」である。

地域の他病院に足を運び、感染管理やゾーニングについて教えを請い、
自作のスライドで、職員を教育している。

このように「人物依存的」なところが、日本の感染症医療体制の弱点かもしれないが、
いま「どうのこうの」言っても、すぐに体制は変わらない。

院内の誰かがリーダーシップを切って、
この理事長先生のように「勉強して」進めるしかないだろう。

インタビューは続く。

Q2.
院内の職員以外に、理解を得ておくべき対象はありますか?

(理事長)

はい。まず清掃業者さんですね。
「コロナ患者さんを受けるなら撤退したい」っていうくらいに言われました。

それに対しては、病院職員がコロナエリアの清掃をする、
という話をして、少し納得してもらいました。

次は、コロナ患者さんのごみは「ごみ集積所」まで病院職員が運んでほしいと言われたので、

やはりいろいろ知識の共有が必要と考え、
清掃業者さんにも、個別で、自分が作ったスライドで、
勉強会を開いて、清掃業者の社長さんにも来てもらって、ご理解を頂きました。
また、警備会社さんにもやはり、
こういった状況で、警備の人が、病院で働くということを、
避けたいという職員が増えてきている、ということで、
警備会社さんにも教育スライドを使って、講演させて頂きました。

また、どの外部委託企業さんも、
病院で働きたがらない中で、(職員が)辞めてしまうとのことで、
賃上げも要求されて、呑まざるを得ませんでした。
新型コロナで、収入が落ちている中で、
外部委託業者との関係は、賃上げも含めて、苦しんいることの一つではあります。

Q3. 
葬儀屋さんはどうですか?

(理事長)

葬儀屋さんとも連絡をとって、納体袋というのを都から頂きましたが、
本来はご遺体の移動とか着替えを葬儀屋さんに手伝ってもらえるんですが、
コロナ患者さんについては霊安室への移動を病院職員だけで行う、こととしました。
もちろん、そんなに多くの方がこの病院で亡くなる想定はしていないですが、
コロナ感染症の症例報告を見ていると、かなり肥満の人はリスクがあるようで、
そういった方が亡くなったときに、看護師だけで運べるのかなと心配です。

また、普段だったら夜勤アルバイトの医師にお看取りをしてもらったりしていますが、
アルバイトの先生にコロナ診療(コロナ患者さんのお看取り)っていうのは、
かなり抵抗感が強いと思うので、そういったところは常勤医師をかり出す予定です。

コロナ患者さんが亡くなった場合は、
亡くなる前後に家族が面会すらできない、という問題が発生しますが、
これは法律で強制できるものではないそうなので、
トラブルがあったときに、病院職員がご家族に説明してご理解を頂かなければならないので、
専用の説明用紙を作って、
「ご家族を守るために、会えないことに対してご理解ください」と説明することとしました。
そういうった一つ一つの付加業務についても、
職員をストレスから守るために、一緒にいろいろ考えているところです。

新型コロナウイルスは、誰にとっても、何もかも初めてである。
コロナに慣れ親しんだ専門家も実業家もいない。

何か一つ動きを作ると、多くの問題が発生してくる。そして皆、不安で、イライラする。

しかし、「コロナとの共生」という新しい社会を前向きに作るには、

この理事長先生のようなリーダーシップで、

一つ一つ、問題の「落としどころ」を見つけて、前進する以外に方法はないと思う。

インタビューは続く。

Q4. 
自治体にどのように要望されますか?

(理事長)

防護具がどれくらいで来るのか(補充されるのか)とか、
ある程度、いつものように(使い捨てで)使って良いのかとか、が見えないです。

N95マスクなどはいまのところは1週間ごとに交換という指示を出しているですが、
先日までは各自アルコール噴霧でマスクを消毒しましょうと言っていたんですが、
アルコールは良くないことが判り、撤回しました。(マスクの素材をイタめる)

そういった「使いまわし」に対するガイドラインとか、
防護衣などは、依頼すれば来るものなのか、来ないものなのか、
っていうような情報を出してもらうと、ありがたいです。

あとは、正直な話、
コロナ患者さんを受けることによって経営というのは必ず悪くなります。
もちろん風評被害も含めて。

院内感染が起これば14日間、病院停止っていうこともあると思うので、
やはり受けることによってのリスクに対する、
もしこういうことがあったらこうはしてあげるという、
金銭的な補償の面で明文化されるとありがたいです。

それは、私も経営者として、
逆にスタッフ(雇用者)からもすごい言われていて、
感染して休む際の補償など、そこは病院で明文化しておいてほしい、
自分たちの生活が不安だと、すごく言われています。
都や国からそういったことが明文化して頂けたらありがたいなと思います。

Q5. 
他の病院への言葉は?

(理事長)

5月2日現在、今は落ち着いているようにみえますが、
また第2波、第3波が来るなかで、
医療崩壊を起こさないためには、
やはりどの病院も、「他人事」ではいけないのかなと思います。

受ける受けないに関わらず、
院内感染は、どの病院にも起こりうることです。

特殊な疾患、例えば心筋梗塞は〇〇病院、脳梗塞は〇〇病院、
というものとはちょっと違って、

いままでのインフルエンザやノロのようなもので、
インフルエンザだから〇〇病院、ノロだから〇〇病院に送ることがなかったように、
やはり各々の病院である程度「完結」できる体制を作らなければなりません。

それで救急のしっかりしたピラミッド、
三次救急を頂点とした形を保ってゆかないといけないと思うので、
少なくとも軽症者に関しては自分たちの病院でみれる体制っていうのは、
各々の病院がつくらないと、いけないんじゃないかな、という風に感じています。

(インタビュー終わり)

新型コロナウイルスは、エボラ出血熱やSARS、MARSと違い、
感染者の8割が軽症あるいは無症状であり、そういった無症状者から周囲に感染が広がる。

したがって、

どの病院も、コロナ患者を受ける、受けないの意思決定とは別に、
少なくとも、コロナ患者さんを適切に診療し、院内感染を防ぐ「ノウハウ」が求められる。

しかし、ほとんどの病院に、感染症の専門医はいないし、
大学などの専門医も今は忙しく、引っ張りだこで、いちいち指導を請うことも困難だろう。

したがって、

病院の管理者は、院内に代表者を立てて(対策班を作って)、
現在の、日本の医療体制においてできる限りの情報収集、つまり

  • 感染症関連の学会HP等から情報を収集する
    (これだけでもかなりの情報になる 参考:日本感染症学会
  • 地域の病院同志で情報を共有する
  • そのうえで、基幹病院にいる専門医のチェックを受ける

等に取り組むことが重要だと思う。

我々の、地域医療の目標は「コロナの死亡者を少なくすること」だと思う。
これについては、今のところ、日本の医療政策はうまくいっている。

しかし、今後の長期戦の中で、
結局、コロナに圧倒されてしまう可能性も、まだ十分にある。

従って、全ての医療機関は、「コロナを診ない」のではなく、
「コロナといかに共生するか」にシフトする必要があると思う。

行政は、経済的および物資のサポートで、
また、ロジスティクスの人的サポートで

その「シフト」を、これまでに以上に、後押しする必要があるだろう。

そして、肝心な「感染対策の基礎知識」については、
病院管理者自らが、「勉強する」しかないと思う。

また、より実践的な知識(清掃や出棺など)は、
地域で集まって、WEB会議などで共有するべきと思う。

今回の理事長先生のインタビューを通じて、以上のことを、強く思うに至った。

まとめ

次の波は、早ければ1ヵ月半後にやってくる。

地域の経済活動を早期に再開させるための、
最も重要なファクターは、「医療崩壊水準の引き上げ」、つまり、全病院の「コロナ対応レベルの底上げ」ではないだろうか。

そのためには、各病院管理者(あるいは現場の代表者)自らが、
コロナ感染対策の基本を学び、職員を啓蒙し、
職員からの疑問に一つひとつ答え、「コロナとの共生」を開拓してゆく必要があるだろう。

 

公開日:2020年5月7日  カテゴリ: 新井隆男のブログ

プロフィール

救命救急センター長 新井隆男

東京医科大学八王子医療センター
救命救急センター長 新井隆男

◎所属学会 認定資格
日本救急医学会指導医
日本救急医学会関東地方会
日本臨床救急医学会
日本外科学会
日本腹部救急医学会
日本感染症学会
日本熱傷学会
日本プライマリ・ケア学会

◎これまでの社会活動
東京DMATインストラクター
東京都地域災害医療コーディネーター