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第21回 若手医師の獲得戦略 その4 「ウインザー効果」について

若手医師の獲得戦略 その4 「ウインザー効果」について

私が医学部の5年生のとき、

病院実習において、
ある先生のことがとても印象に残っている。

お世話になったのは1週間だけだったが、
一生の思い出になった。

専門領域について
詳しく教えてくださったわけではないが、

ただ、「時間」を共有してくださった。

ありのままの日常業務に、ずっと帯同させてくれた。

あのような「ありのまま」の指導教官には、その後、ほとんど出会わなかった。

 

今の私は、

管理職の仕事を「言い訳」にして
学生と時間を共有することを、サボっている。

しかし、振り返ると、

私も「現場」の最前線にいたころは、
学生を、できるだけ自分の傍に居させて、共に「時間」を過ごした。

そうやって一緒に過ごした何名かの「学生さん」が、

いまでは、立派な「救急科専門医」になった。
そして、現在の八王子医療センター救命救急センターを支えてくれている。

本当に頼もしく思う。

 

思うに、学生から見れば、現場の「医師」は、
とてつもなく遠い存在で、空想の世界の登場人物なのかもしれない。

その人物が、自分の前に降りてきて、
言葉を交わし、仕事中、ずっと傍に、自分を置いてくれたとする。

そこで与えられたインパクトは、一生の刻印に匹敵するのかもしれない。

もちろん、
学生によっては、「良い迷惑」と感じさせてしまうこともあるだろう。

しかし、
強調したいことは、

「人材を獲得して組織を強化する」目的においては、
目の前を通過する全ての「客人」を大事にするべき、ということだと思う。

 

「ウインザー効果」とは、

直接本人から伝えるよりも、
第三者を介して伝えたほうが、

信憑性が増したり、
影響を与えることができる心理効果である。

我々にとっての「客人」とは、
実習の学生や、他府県からの見学者、講演で招聘した専門家、などである。

たとえ、当人が、将来ここに「入職」してくれなくても、

帰還後に客人が発信する、
「八王子医療センターって素晴らしいところだったよ」
というポジティブな言葉は、ホームページ以上の宣伝効果があると思う。

 

では、

目の前を通過する「客人」を、
どのように、『大事』にすればよいのか。

 

以前、私は、災害医療の先駆者である、
平成立石病院の大桃丈知先生を訪問したことがあった。

“貴院の「災害マニュアル」を見せて頂きたい”、と依頼し、先方に伺った。

ところが、はるか後輩である私に対し、
そこでは、身に余る「歓待」を頂いたのである。

この「歓待」は、決して「豪華」とか「特別待遇」という意味ではない。

平成立石病院の取り組みを、
なに一つ隠すことなく、全て、ありのまま紹介して下さったのである。

そこには、「自慢」も「卑下」もない。

ただ純粋に、

自分たちが日ごろから精一杯取り組んでいる内容を、
見に来てくれた人に対し「感謝」の気持ちを込めて、紹介してくださった。

その説明に費やされた大変な「労力」に恐縮しつつ、

さらに同時に、
私は、大桃先生はじめ、病院の方々の「精神的成熟性(ゆとり)」に大きな感銘を受けた。

自分の「ありのまま」の世界に、
他者を受け入れること。そして、時間や空間を惜しまず「共に」過ごすこと。

これが「おもてなし」の本質であろう。

しかし、これを実行することが、本当に、難しいのである。

 

誰にとっても、いまの自施設には、
現状では、まだまだ、「改善」の余地があり、

決して、外部に自慢できない部分もあるだろう。

しかし、毎日、皆で精一杯やってきた結果は、誰に隠す必要もない。

 

「客人」を前にして、
「ありのまま」を出せないのであれば、それは「自己否定」の証であろう。

逆に、「客人」を前にして、
「ありのまま」を出せるのであれば、それは、「自己肯定」と言える。

 

そして、重要なことに、
「自己肯定」は、「他者に対する寛容」と表裏一体である。

 

つまり、「客人」を前にして、「ありのまま」を出せるのであれば、 それは、「客人」を、心から受け入れた、ということを意味する。

そこで初めて「客人」は、
その旅に、「安心感」や「居心地よさ」を覚えるのだと思う。

 

学生が病院実習で感じる「インパクト」や、
私が平成立石病院の見学の際に大桃先生に感じた「底知れぬ魅力」は、

客人の心に突き刺さる、
「自分は大切にされているという実感」なのだと思う。

この感覚を与えられるかどうかが、「勧誘戦線」を左右する大きな要素ではないだろうか。

 

以上、まとめると、

若手医師の獲得戦略には、
全ての「客人」を大切にする姿勢が必要だと思う。

ウインザー効果で示されるように、客人による「口コミ」は、
ホームページなどによる直接的な勧誘以上に、効果を発揮する可能性がある。

そして、

全ての「客人」を大切にするためには、

自分達の「ありのまま」の世界に、
他者を受け入れ、時間や空間を共有できる、精神的な「ゆとり」が必要だと、私は思う。

 

次回、 第22回 コロナ禍から得られるもの に続く。

公開日:2020年4月3日  カテゴリ: 新井隆男のブログ

プロフィール

救命救急センター長 新井隆男

東京医科大学八王子医療センター
救命救急センター長 新井隆男

◎所属学会 認定資格
日本救急医学会指導医
日本救急医学会関東地方会
日本臨床救急医学会
日本外科学会
日本腹部救急医学会
日本感染症学会
日本熱傷学会
日本プライマリ・ケア学会

◎これまでの社会活動
東京DMATインストラクター
東京都地域災害医療コーディネーター