single.php

第6回 医療をとりまく社会の変化(3) 「財政破綻の可能性・現役世代の役割」

第6回
医療をとりまく社会の変化(3)「財政破綻の可能性・現役世代の役割」

私は、最初のうちは、
「どうして毎日、どの病院もお金のことばかり、考えるようになったのか?」 という違和感があった。

しかし途中から、
「とにかく、お金を儲けて、病院の経営に貢献するんだ」
と思うようになった。

最近では、「いや、それもちょっと違うなあ」
「そういうのは『近視眼』的発想だなあ」と思うようになった。

結局、ブログ第2回第3回に書いたように、
遠くを視て、「日本の大ピンチを救う1人になりたい」、と思うようになった。

今回は、日本がどれほど「大ピンチ」かについて、
私の認識をさらにまとめる。

財政危機

国の財政が危機的状況であることを、医療者こそ正しく認識する必要がある。

よく、国の財政が家計に例えられる。

日本の場合は、

年収500万円の家庭に1憶円の借金があり、
この借金の利子200万円を払うために、
また、新たな借金を繰り返している、という状況である。

普通の家計なら自己破産する。

このまま、本当に首が回らなくなったらどうなるのか。
その点は、ギリシャの例が、よく取り上げられている。

ギリシャでは、2009年の政権交代時に、
旧政権が財政赤字を隠していたことが明らかになり、
世界の投資家からお金を借りられなくなった。

結果、ギリシャはIMF(国際通貨基金)などの支援を受けざるを得なくなった。
支援を受けると同時に、厳しい財政再建策を課された。

具体的には、
付加価値税(日本の消費税に相当)を23%に引き上げ、
公務員の給料を、2割削減し、
医療・介護などの社会保障も、大幅に縮小した。などである。

これに対し、ギリシャ国民は猛反発し、
連日のようにストライキやデモ、暴動が発生した。
海外に逃げられる国民は、国を捨て海外に移住した。

ギリシャの失業率は急上昇した。
現在でも、全体で25%、若者だけに限ると50%を越えている状況である。

それまでのギリシャは、

公務員の待遇が非常に恵まれていた。
さらに年金制度や社会保障が非常に分厚かった。

要するに、

どの国でも同じであるが、

国家の歳入が足りていないのに、
国民が分不相応な待遇と社会保障を受け、
その状態を国が放置してしまうと、
借金が「雪だるま」式に増えるのは、自然の摂理だろう。

しかし、一方で、

雪だるまを『事前に』阻止するような、
厳しい経済政策を、政府(あるいは政党)が掲げると、どうなるか。

例えば、
「日本は節約が必要である」として、
「社会保障費の削減」などを大々的に掲げたら、どうなるか。

おそらく、現役の有権者から支持を得られず、落選するだろう。
選挙権のない次世代の声は、反映されないからである。

結果、問題を次世代に先送りするような、
後手後手の「政治判断」が、繰り返されてきたことも、自然の摂理であろう。

そして、今、私たちの目前にある
「地域医療構想」や「医師の働き方改革」は、

雪だるまを『事前に』阻止するために、
入念に計画して、国が打ち出した、本格的な危機回避政策だと思う。

というのも、国の医療財政は、本当に切羽詰まっている。

そのことを、医療者こそ、正しく認識するべきであろう。

借金の原因は社会保障費

財政逼迫の主因は、社会保障費の急騰である。

日本に借金が積み重なったのは、
1990年代初頭にバブルが崩壊してからのことである。

実際、1990年代前半には200兆円に満たなかった国の借金は、
現在では約1000兆円まで増えている。

つまり、過去30年で借金が約800兆円も増えた。

図1は、ブログ第5回と同じであるが、

図1国の歳出・歳入 出展:財務省資料

1990年台前半(1990年=平成2年)をピークに、
税収が右肩下がりで減少している。

もちろん、バブル崩壊で景気が悪くなったことが大きな要因だが、

景気を支えるために実施した「減税」も、
税収の減少に拍車をかけた一因とされている。

また、税収が減少するのと反対に、歳出が増加したことも、
借金が膨れ上がってしまった要因である。

歳出の増加には、大きく2つのフェーズがある。

第一フェーズは、
バブル崩壊以後の悪化する景気を支えるため、
公共事業を増やしたことである。

第2フェーズは、1990年台後半(1998年=平成10年)になると
高齢人口の増加によって、社会保障費がグングン増加しはじめた。

現在では、借金の最大の要因は社会保障費であり、
これだけで毎年約60兆円以上、足りないといわれている。

なぜ、社会保障費がこんなにも赤字の温床になってしまったのか。

図2は、上の部分が、65歳以上の高齢者人口。
主に社会保障で支えられる、いわゆるリタイヤ世代。

下の部分が、20歳から64歳の、いわゆる現役世代。

図2
総務省「国勢調査」「人口推計」、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」 資料:総務省「国勢調査」「人口推計」、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(出生中位・死亡中位)」

1965年の基準(みこし型)から比べて、

騎馬戦型(2014年)では4~5倍、
肩車型(2050年)では、7~8倍に、

現役世代の負担が増える。

しかし、現役世代にそんな重い負担を背負わせることは、
事実上不可能なので、
足りない部分は、税金や国債で補ってきたのが、日本の社会保障の実態である。

図3の赤い折れ線グラフは、「国が社会保障のために使ったお金」
青い棒グラフは、「そのために国民から徴収した保険料」である。

図3社会保障収入と社会保障給付費

その差額(不足分)が、どんどん増えており、
現在では、毎年60兆円に達している。
この約60兆円の不足分を、毎年、税金や「国債」で埋めている。

この社会保障費を少しでも賄うために、
国は、消費税を10%にまで引き上げ、
その増収分を、全額、社会保障費に充てているが、効果はあくまで限定的である。

図4は、各国の「借金」総額を、GDPとの比較で見たものである。

図4
IMF “World Economic Outlook Database”(2019年)出展:IMF “World Economic Outlook Database”(2019年)

日本の借金総額は約1300兆円あり、GDP比では230%以上になる。
この比率は、他の先進国とは比べものにならない、ダントツの高さであり、

2位:ギリシャ(180%)
3位:レバノン(147%)
4位:イタリア(132%)を、

大きく上回っている。

日本の最後の蓄え

日本の財政を根本的に支えてきた一般家庭の家計力にも、いずれ限界がくる。

そんな状態でも、
いまだに日本が、「お金を借り続けることができる」のはなぜか?

それは、日本の国債がほとんど、
「国内」の投資家によって購入されているから、と言われている。

ギリシャの国債は、その多くが海外の投資家によるが、
日本の国債を買っているのは、
(=日本にお金を貸してくれているのは)
実は、日本の国民そのものであり、「家計」の金融資産なのである。

日本国債の国内保有率は約94%と非常に高い。
そのうちの多くは、日本の金融機関や保険会社である。

自分では「国債を買っていない」と思っている一般家庭の皆さんが、
銀行や保険会社に貯金していれば、
そのお金を原資にして、
国内の銀行や保険会社が、日本の「国債」を買ってきたのである。

結果、間接的に、日本の「家庭」が、日本の国債を買い支えてきたことになる。

日本の家計がもつ金融資産(家計金融純資産)は、約1500兆円と言われれている。
これが、国の借金の総額である一般政府債務(1300兆円)より少し多い。

このことにより、
もし海外の投資家がお金を貸してくれなくなったとしても、
国内の投資家が、安い金利のまま、いつまでも貸してくれる、

という「身内に甘えている」状況である。

日本の借金は、身内から借りているお金なので、
ギリシャみたいに、投資家から見捨てられて、破綻することがない。
という理論である。

本当に倒産しても、国民が保証人になっているので大丈夫、
という、すごい理論である。

しかし、日本の家計金融純資産は、今後減少する可能性がある。

少子高齢化が進み、個人の蓄えが減ると、
家計金融純資産が、国の借金総額を下回る可能性もある。

その際は、日本の国債は、
海外の投資家にも買ってもらわねばならなくなり、

そうなると、
何か起きたらギリシャと同じように見捨てられてしまうのではないか、
という懸念が「現実味」を帯びてくる。

ひたむきな努力が報われるように

危機を乗り越えるため、現場の医療者の日々の努力を、正しい方向に集約すべきと思う。 そのための「地域医療構想」「働き方改革」であろう。

このような背景のなかで、

日本の場合は、緊迫する財政問題を解決するためには、

(1)景気を良くして税収を増やすこと、
(2)社会保障費を抑制すること。

これしか方法はない、といえる。
(2)に関する方法論が「地域医療構想」や「働き方改革」である。

こんなにも、国が大ピンチなのに、
そして自分の病院や、「医療そのものの継続」が大ピンチなのに、

未だに、現場の医療人の多くが「実情を知らないこと」こそが、
最大のピンチなのではないか、とも思う。

私自身も、普段の忙しさにかまけて、「現状を知らないまま」ここまできた。
しかし、今は、いったん立ち止まって、時間を作っては、未来を真剣に考えている。

自分自身、あと20~30年の医師人生、何のために過ごすか。
八王子医療センターは、どの方向に進むべきなのか。

これからの医療は、これまでの20年とは、全く違ったものになるだろう。

・・・ふと、医療現場で働く部下たちをみると、
目の前の患者さんに100%没頭してくれている。

24時間365日「断らない3次救急」と、渾身の集中治療を、実践している。
そういった「魂の塊」ような職員たちがいて、やっと医療が成り立っている。

立ち止まって、未来を考える余裕などなく、
一人一人の患者さんを、ただ丁寧に診てくれている。

彼ら(彼女ら)は、そのままでいい。
ゆっくり未来を考える余裕などは、無くてもよいし、無いだろう。

ただ、そんな彼ら(彼女ら)の努力が、
「近視眼」的に、部分最適のために使われてはならないと思う。

彼ら(彼女ら)のひたむきな努力こそ、
日本の医療を確保して、未来を「切り開く」方向に、「集約」させねばならない。

そうでなければ、彼ら(彼女ら)自身が、報われない。

そのために、「地域医療構想」や「医師の働き方改革」は、
遅滞なく、真剣に取り組まねばならないと思う。

公開日:2020年1月20日  カテゴリ: 新井隆男のブログ

プロフィール

救命救急センター長 新井隆男

東京医科大学八王子医療センター
救命救急センター長 新井隆男

◎所属学会 認定資格
日本救急医学会指導医
日本救急医学会関東地方会
日本臨床救急医学会
日本外科学会
日本腹部救急医学会
日本感染症学会
日本熱傷学会
日本プライマリ・ケア学会

◎これまでの社会活動
東京DMATインストラクター
東京都地域災害医療コーディネーター