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第4回 医療をとりまく社会の変化(1)  なぜ「地域でまとまる」必要があるのか

第4回
医療をとりまく社会の変化(1)  なぜ「地域でまとまる」必要があるのか

まもなく、われわれ医療者は、
大きな「うねり」に巻き込まれることになると思う。

これまで経験したことのない、
誰もが答えを知らない世界であろう。

大きな流れとしては、

急性期病院からの患者の受け皿として、
回復期や慢性期の病院を増やすこと。

かつ、高齢者施設を含めた「在宅医療」に人材や資源を回すこと。

これが「地域全体の流れ」つまり地域医療構想であり、2025年を期限としている。

この「再編」作業は、
個々の医療機関の損得を超えた、
地域全体の「協調」が必要になる。
果たしてそのような「全体最適」が地域内で実現可能なのであろうか。

私のいる八王子医療センターの周辺には、
どのような医療機関、介護、福祉施設があり、
各々どのように未来を捉えているのだろうか。
これらの全てが、一つの「集合体」として、一定の方向に進み得るのか?
今の私にはわからない。

その前に、まず何より、
この大きな「うねり」の元になっている、
「日本の変化」を知らなければならないと思う。

これを知らなければ、地域うんぬんを語ることもできない。
ブログ第2回で、
日本の医療が「地域」へ移行している理由は、
「人口動態の変化」と「国家財政の悪化」である、という認識を述べた。

これらについて、もう少し詳しく、私の勉強した内容を、以下にまとめたいと思う。

日本の総人口の推移・推計

我々は今、人口の急勾配を下り始めたところにいる。

図1をみれば、
過去100年と、今後の100年は、
日本の歴史の中で、かなり特異な時期であるとわかる。

人口が、急激に増え、急激に減る。

我々は今、この急勾配を下り始めたところにいる。

図1:日本の人口の推移 図 1:日本の人口の推移 出典:平成 24 年版 厚生労働白書-社会保障を考える- 第 6 章(一部改)出典:平成24年版 厚生労働白書-社会保障を考える- 第6章(一部改)

私たちがこれまで経験してきた医療は、「増加」の医療であった。
患者さんはどんどん増えた。病院も増えた。何もかも増えた。

しかし、それを未来に当てはめるのは非現実的であろう。

この山を下り始めている今、
今後の医療や介護の在り方を、新たに見極める必要がある。

日本の医療供給力

日本には、病院がたくさんあるために、医師や看護師の数が薄まっている。

日本の医療供給力をみてみよう。

まず、資本力(モノの供給力)については、

人口当たりの病院数・病床数、
CT・MRIの台数などは、
どの指標をとっても圧倒的に世界一位である(図2)。

図2*2016年、 出典:OECD Health Statistics  2019*2016年、 出典:OECD Health Statistics 2019

これに対して、労働力(ヒトの供給力)をみてみると(図3)、

図3*2016年、 出典:OECD Health Statistics  2019*2016年、 出典:OECD Health Statistics 2019

諸外国と比べて、
人口あたりの医師や看護師数は同等である。

しかし、病院あるいは病床あたりの医師や看護師の数が、圧倒的に少ない。

これが日本の「医療過疎」の原因である。

つまり、病院や病床がたくさんあるなかで、
そこに配置される医師や看護師が、極端に薄まっている。

この「薄まり」をいかに「集約」するかが、日本の医療の課題である。

私の医師人生を振りかえっても、
「どうしてこんなに医師が少ないのか」とずっと思ってきた。
少ない医師数で、無理やり、臨床を回してきた。

この理由として、医師の薄まりがあったのだと思う。

この先、医師はできるだけ集約させ、シフト制などを十分に敷くこと。
そういった医療効率の改善が、医師個々の人権を守り、
ひいては、患者さんに安定した医療を提供することになると思う。

日本の病院数の推移

医療法の改定による、医療費抑制効果は、限定的であった。

では、どうして、これほどまで病院が多いのか。

明治政府が「医政」を発したのが明治7年。
ここで日本の医療は「西欧医学」を基本とすることが唄われた。

大正から病院が増えはじめ、戦前は約4600まで増加した。
しかし戦争で破壊あるいは閉鎖され、いったん約600まで減った。

その後、再度、増えて1990年(平成2年)のピーク(10096病院)まで増え続けた(図4)。

図4:我が国の病院数の動向図4:我が国の病院数の動向 出展:「ソーシャルビジネスとしての医療経営学(2011/ 7/ 1)薬事日報社」出展:「ソーシャルビジネスとしての医療経営学(2011/7/1)薬事日報社」

どうしてここまで増えたか。
それは、日本には私立病院が多いことと関連する(図5)。

図5:我が国の私立病院の増加図5:我が国の私立病院の増加 出展:⻄田在賢「英国病院トラスト考」連載第 5 回から出展:西田在賢「英国病院トラスト考」連載第5回から

戦後の社会復興のなかで、病床の開設許可もおりやすかった。
しかも、経済が好調で、診療報酬が高く設定され、経営利益が見込まれた。
人口も増加傾向で、患者さんの獲得に困らなかった。

そうなると、個人病院は、当然、どんどん開設されるはずである。

このようにして、日本の病院は、
とくに「私立病院」が増加するかたちで、1990年まで増加の一途をたどった。

国民医療費の高騰を、いかに抑えるか

国⺠医療費は、いまだにぐんぐん伸びている。

その結果、1970年代に急速に国民医療費が膨らんだ。

理由は、1973年(昭和48年)に「老人医療費無料化」が制定され、
それにより、外来、入院ともに、高齢者の受診率が増加したことがあげられる。

受け皿としての、病院の数は十分であった。

当時、国民医療費の伸び率が前年比20%を超えた。
国民医療費の高騰を危惧する声が上がり、「医療費亡国論」が噴出した。

ついに国は「これ以上は病床を増やしてはいけない」という、
第一次医療法改定を、1984年(昭和59年)に制定した。

医療法は、「病院運営の要件」や「病院開設の手続き」を定めたものである。

医療法を改定する意味は、
医療の質を改善するだけでなく、「医療費を抑制する」意味が含まれていた。

この第一回(1984年)以降、「医療法改定」がたびたび行われ、
国民医療費を抑制する手が次々と打たれた。

例えば、

病床数に上限を定めるだけでなく、
入院単価の安い「療養病床」を設置した。

入院単価の高い「一般病床」は、
看護師の数(7:1など)などのハードルを高くすることで、 簡単に運用できないようにした。

その他、病院の「質」改善を促すために、
広告規制の緩和や、法人の制度改革などが行われた。

医療法の改定以外でも、

価格統制(GDP伸び率に合わせて総医療費を先に決める)や、
DPC制度(過剰請求を抑制するための包括化)など、

国民医療費抑制に向けて、あらゆる手が打たれた。

しかし、しかしである。
国民医療費は、下図のように、いまだにぐんぐん伸びている。

図6図6 出展:厚労省資料(一部改)出展:厚労省資料(一部改)

なぜ、これほどの、医療制度改革を行っても、
いまだに、国民医療費を効果的に抑制することができないのか?

そこには諸説あり、制度設計の問題や、市場の原理、政治介入による障害、など、
複雑な要素が存在するようである。

国民医療費を抑制するために

病院単独での財務改善より、地域全体の視点で考えるべきであろう。

ここで私の現場レベルの私見を述べると、
やはり、「市場の原理」が、国の医療費を引き上げていると思う。

つまり、「日本には諸外国の10倍も病院があり、その7割が民間病院」であることが、
国民医療費高騰の大きな原因ではないか。

民間病院を成り立たせるには、当然、財務的に回さねばならない。

八王子医療センターも同じである。
その「存続」をかけて、必死の経営努力を続けてきた。

私も、現場の最前線で、財務状況の改善に取り組んできた。

病院は、あらゆる制度改定や、診療報酬改定に合わせ、
精一杯の対策を練って、「病床を埋める」努力を、真面目に行ってきた。

もちろん患者さん中心の医療ではある。

しかしその一方で、
病院を倒産させないために、「儲けを減らさぬよう」努力している。

最近は、どちらが優先か迷うくらい、
病院職員にとっても、「財務状態の改善」が、優先事項になっている。

しかし、われわれが財務改善の努力に励めば励むほど、
患者さん一人当たりの社会保障費がどんどん増える、という皮肉な構図が、ここに成立する。

これでは、国の総医療費は減るはずがない。

すべての病院がその病院「単体」での「生き残り」に没頭している限り、
根本的な問題が解決できないのではないか?

そのような「負のサイクル」から本質的に抜け出すためには、
「地域でまとまる」必要がある。これが地域医療構想の原理だと思う。

しかも、2024年に「働き方改革法案」が施行されると、
医師も、地域内で集約する必要性が高まる。

いま、社会は丁度、「病院単体」から「地域」への転換点にいるのではないか。

八王子医療センターのような大学付属病院は、
そういった、地域医療の先行モデルを、地域をリードして創造する責務がある。
そういう思いを込めて、
第2回(地域医療のLeading hospital 「新しい医療を、八王子から世界へ」)を書いた。

 

以上、社会の変化について、私見を交えてまとめた。

しかし、国の財政が、本当のところどの程度、厳しい状況なのか。
それを知ることなしには、本格的な議論を進めることもできない。

そのことについて、第5回でまとめたいと思う。

 

公開日:2020年1月16日  カテゴリ: 新井隆男のブログ

プロフィール

救命救急センター長 新井隆男

東京医科大学八王子医療センター
救命救急センター長 新井隆男

◎所属学会 認定資格
日本救急医学会指導医
日本救急医学会関東地方会
日本臨床救急医学会
日本外科学会
日本腹部救急医学会
日本感染症学会
日本熱傷学会
日本プライマリ・ケア学会

◎これまでの社会活動
東京DMATインストラクター
東京都地域災害医療コーディネーター